B:銀鱗の大蛇 ウクテナ
荒野では蛇の被害がそれなりにあるんだが、なかでもよく報告に上がるのが、銀の鱗を持つ「ウクテナ」だ。こいつは毒こそないものの、とにかく巨体でな。運のない荷運び人を駄獣のロネークごと丸呑みにしたっていう、驚くような情報も寄せられているほどなんだ。ウクテナを放置すれば、いずれトラルヴィドラールになるのは確実だろう。今のうちに討伐するのが最善ってもんさ。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
大型の魔物やリスキーモブに指定されるクラスの生物などは人が考えているよりずっと長寿である事が多く、その長い期間をかけて力を蓄積したり、その身に力を宿したりすることがある。
振り返って例を探すなら、例えば紅玉海の四聖獣などはまさにそれにあたる。それは当然ながら紅玉海特有の現象という訳ではなく、世界のどこでも起こり得ることで、「トラルヴィドラール」と呼ばれる存在はトラル大陸においての四聖獣のような存在だと言えば伝わりやすいのかもしてない。
四聖獣の場合はたまたま個体としての知能が高い連中だったので歯止めが効いた。だがそれは、知能の高い魔獣という存在がどれだけ稀有かを考えれば奇跡に近いことで、当然圧倒的にそうではないケースの方が多い。それはこのトラル大陸でトラルヴィドラールが「生ける厄災」とも呼ばれていることからも明らかだ。そして一度トラルヴィドラールの力が解放されると、一つの町や国を滅ぼすどころでは済まず、その周辺地域の自然環境そのものを変化させかねない程の強大な力を持っている。
現存するトラルヴィドラールでその所在や動向が把握確認されている個体と言えばヨカフイの遺跡に封印されている「ヴァリガルマンダ」だが、いつ未知のトラルヴィドラールが暴れ出すのか、いつ新たなトラルヴィドラールが発生するのかは誰にもわからない。そして次のトラルヴィドラール最も近いと言われているのがこの大蛇「ウクテナ」なんだそうだ。ウクテナは大昔からその存在や危険性が言い伝えられているかなり長寿な銀の鱗をした大蛇で、行商など街道を行く商人が荷運用として連れている大型の牛であるロネークを荷物もろとも丸呑みしてしまうのだといわれている。現に近年でもその被害は発生していて、生き残った商人の中にはまさに丸呑みするところを目撃した者もいる。
今回ギルドシップから回ってきた仕事はそのウクテナの討伐だった。あたし達はウクテナの居場所や生態を調べるうちにちょっと怪しい連中を見つけて目を付けていた。そして人の集落から離れる連中の後を追ってこの洞窟に辿り着いた。
巨大な洞窟の岩陰に隠れ、奥を覗き込みながらあたしは独り言ちた。
「やっぱりね」
ギルドシップで話を聞いた時からどうも違和感があったのだ。
「どういうこと?」
怪訝な顔をしながら相方が聞いてくる。
あたしは相方に向き直って答えた。
「被害の頻度よ。ギルドシップの話しではこの半年で行商人が2回、現地集落の家畜が2頭被害に遭っているという話だったでしょ?でも、普段は野生の生物を捕食してるって仮定したって少なすぎない?」
相方は目と口を丸くして納得した様子だった。
洞窟の奥には巨大な祭壇のようなものがあって、その前には丸いお立ち台が置かれている。その手前に例の連中は綺麗に整列して座っていた。祭壇の奥のカーテンが開くとその奥に大きな穴があった。その穴から司祭の様な恰好をした老人が一人現れ祭壇の脇に立った。そして何やら声を上げながらその諸手を揚げると、奥の穴から巨大な蛇が這い出してきたかと思うと祭壇の上にとぐろを巻いて鎮座した。
「あたし達が知ってるシャーロニー荒野はトライヨラが入植した地域だけ。もともとここに住んでいたいくつかの先住民は近代化を嫌ってこの地域を離れて昔ながらの暮らしをしているらしいの。そういう原始的な風習に従って暮らしているような先住民には大蛇のような異形な生物を神の化身として信仰するっていうのはよくある話なの。ここに限らずね」
あたしは洞窟の奥に視線を移しながら言った。
「そういった意味で言えばウクテナは生ける蛮神ともいえるのかもね。で、そう言う蛮神と言えば…」
あたしがそこまで言うのと同時に奥の穴から数人の男が縄で縛られた人間の男の子が担いで現れた。
「ビンゴ!付き物でしょ、生贄。」
がむしゃらに暴れる子供を大人が5人がかりで押さえつけ、お立ち台に立たせる。男の子は目の前に鎮座するウクテナを見ると恐怖で竦んでしまったのか、身動きをやめてジッと動かなくなった。
祭壇の上のウクテナがゆっくりとその鎌首をもたげる。鎌首が3m、4mとどんどん高くなる。大きい。ロネークを荷物ごと飲み込むというのも頷ける大きさだ。天井の高い洞窟の中、するするっとその鎌首は上に延びていく。
「あの子、呑まれちゃう!」
相方が焦ったように声を上げると岩陰から飛び出し走り出した。あたしもそれに続く。
先住民の信者たちは立ち上がって振り返り、身振り手振り何か言っているが、あたし達には現地の言葉は分からない。
相方が鞘から剣を抜き払うと、走りながら魔力を込める。刀身全体が淡い光を放つと同時に、相方は走った勢いも乗せて剣を鋭く振った。魔力を帯びた斬撃がウクテナ目掛け飛んで行きウクテナの頭部を切り裂く。ウクテナは後ろに倒れ込むように首をしならせる。隙をついてあたしはお立ち台の上の男の子を横抱きに掻っ攫うと走りながらぐるっと大回りに方向転換した。
「ここじゃ、魔法で天井が崩れちゃう!外に連れてきて!」
相方が一瞬振り向いて頷くのを横目にあたしは男の子を横抱きに抱えて洞窟の外へと全力で走った。